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日本ロック&フォークアルバム大全1968-1979
銘板100選+アルバム・ガイド650
(1996年 音楽之友社発行 1600円 ISBN4-276-96023-1C9473 P1600E)より


グッド・バイ
森田童子
(原盤ポリドールMR-5071)
収録曲
●早春にて●君は変わっちゃったネ●まぶしい夏●雨のクロール
●地平線●センチメンタル通り●淋しい雲●たんごの節句
●驟雨(にわかあめ)●さよならぼくのともだち

JOJO広重●text by JOJO HIROSHIGE

 友人の自殺をきっかけに歌いはじめたという森田童子は、75年にこの衝撃的なアルバム「グットバイ』でデビユーする。透き通るように清い声、学生運動が敗北した後の時代を生きる「若者」の空漠感を象徴的に描いた歌詞、真っ黒のサングラスと中性的なルックスは、消えゆく70年代の重さと、80年代の空虚な明るさの裏に潜む暗い本質を凝縮したような、聞く者の心に突き刺さる歌と相まって、非常に鮮烈なシンガーとして歴史に名を刻むことになる。 
 このアルバムには、彼女が引退するまでライヴで長く歌われた「地平線」映画『オレンジロード急行』で劇中歌に便用された「さよならぽくのともだち」、故郷を旅立つ者にはあまりに衰しい「センチメンタル通り」等、彼女の歌に魅せられた者なら一生涯忘れ得ない曲が多く収録されている。ある意味で彼女の本質的な孤独、人間の存在自体の淋しさ、郷愁への冷徹な視線が凝縮された作品であると言えよう。早川義夫が日本人男性シンガーの最も重要なキーマンであるなら、女性シンガーの最も重要かつ神聖な位置に森田童子は存在し、このファースト・アルバムは、その基本となる聖書のような作品であった。
 歌の中に心の痛みを歌ったシンガーは多いが、森田童子のように、だれもが若かったことを思い出させるような、心の底の何かを引き剥がす強烈な淋しさを感じさせる歌手は他には存在しない。今生きていることの嘘臭さ、自分という存在の空っぼさ、友人や恋人との別れや喪失感を一度でも感じることの出来た人間なら、森田童子の歌に、自分の内側の大切にしておきたい気持ちの何かを発見することが出来たのである。当時このアルバムを購入した者は、このEマイナーの多いギタ−・アルペジオや、あまりに切ないヴァイオリンの旋律、彼女の声の抑揚まで記憶するほど、それこそLPが擦り切れるまで間いたに違いないのである。ひそしてその哀しさに裏付けされたやさしさ、その重さは、単にフォーク・シンガ−としてではなく自分の青春や気持ちの象徴として彼女をとらえる十二分な理由になったのである。近年テレビドラマで森田童子の歌が主題歌に使われた時、当時のリスナーは誰よりも精神的ショックを受けたはずである。20年前の気持ちを掘り起こされた者にとって、今間く昔の童子の歌ほど、本当に哀しい歌はないからだ。そして、当然のように彼女はマスコミの前に姿を表すこともなく、カムバックすることもなかった。



マザースカイ
=きみは悲しみの青い空をひとりで飛べるか=
森田童子
原盤ポリドールMR-3030)
収録曲
●ぼくたちの失敗●ぼくと観光バスに乗ってみませんか
●伝書鳩●逆光線●ピラビタール●海を見たいと思った●男のくせに泣いてくれた
●ニューヨークからの手紙●春爛漫●今日は奇跡の朝です

 JOJO広重●text by JOJO HIROSHIGE

 TVドラマ『高校教師』で有名になった@を含む、森田童子初期の傑作。ファーストがまだフォーク・シンガーとしての雰囲気を維持していたのに対し、この作品以降はニューミュージック的アレンジを展開する。しかしそれが彼女のセンチメンタリズムをさらに助長して、透明感のある歌の幻想性を高めることに成功している。
 学生連動その後の世代の、挫析感、やりきれなさ、喪失感、孤独など、ネガティヴな精神性が彼女の歌の真髄だが、その空虚な世代のみならず、現代人に共通する空漠感に訴えかける切なさが、このアルバムに収録されだ曲にはまぎれもなく存在している。



ア・ボーイ
森田童子
(原盤ポリドールMR-3085)
収録曲
●蒼き夜は●きみと淋しい風になる●ふるえてるネ●ぼくを見かけませんでしたか
●セルロイドの少女●淋しい素描●ぼくが君の思いでになってあげよう
●G線上のアリア●終曲のための第3番「友への手紙」

JOJO広重●text by JOJO HIROSHIGE

 前作の延長にある、極めて内省的でデリケートな作品集。ここでは初期の彼女の歌詞が持っていた、かなり具体的な言葉はだんだんに影を潜め、孤独のイメージそのものを詩に託す作品が多くなってきている。優しさが若者の携帯する当然の要素となる時代に、その弱さを慰めるのではなく、本質を浮き彫りにする哀しい歌がここにある。この哀しさは、どこか神が人間を哀れむような、そんなまなざしを全編に漂わせているようだ。乱暴な言い方だが『グッドバイ』からこの作品までの三作で、哀しき語り部・森田童子の世界は完結する。彼女の最高傑作であろう(8)に全ての想いは歌い尽くされた、気がするのだ。


この文章は1996年に発行された「日本ロック&フォークアルバム大全1968-1979 銘板100選+アルバム・ガイド650」(音楽之友社1600円)に掲載された、JOJO広重(ミュージシャン、前衛的パンクバンド「非常階段」)さんによるレコード・レビューです。転載にあたってはJOJO広重さんから、転載許可をいただきました。ありがとうございます。